「棋士の一分」 橋本崇載 著 角川新書
- 2017.02.13 Monday
- 23:40
JUGEMテーマ:活字中毒〜読書記録〜
近頃将棋界が何かと騒がしい。
今日も、スマホ不正疑惑で出場停止処分を科されていた三浦弘行九段の復帰第一戦が、羽生善治永世六冠相手に行われているというテレビニュースを見たばかりだ。
いいニュース、悪いニュースどちらもあるが、やはりこのスマホ不正疑惑が大きく取り上げられたこともあり、悪いニュースで目立ってしまっている印象が強い。
そんな将棋界に、内部で早くから警鐘を鳴らしていたのがこの本の著者、橋本崇載八段である。
橋本八段といえば、目立ちたがり屋なのではないかという印象を持っていた。
いつか金髪パンチパーマで対極に臨んだことがあった。
また将棋が指せる酒場「SHOGI−BAR」を経営している。
そのくらいの情報しか持ち合わせていなかった。
しかしこの本を読んで、まじめすぎるほどに将棋に対して真摯に向き合っているのだなと思った。
また私が思っていた以上に将棋界が難しい時期にあるのだということも感じた。
糸谷哲郎という棋士がいる。
将棋界最高峰のタイトルの一つ竜王のタイトルを取ったこともある一流棋士だ。
その糸谷八段が、新人王戦優勝の表彰式で「今の将棋界は斜陽産業」と発言したという。
将来を見越してか,プロ棋士と並行して大阪大学、さらに大学院に進学している。
前途有望なはずの棋士が、いわば保険をかけているように映る。
また糸谷八段以外にも、最近の棋士は高校だけではなく、大学進学者も増えているなと気にはなっていた。
それも将棋だけでは食えなくなるかもしれないという危機感を持っている若手が多いという表れなのかもしれない。
将棋界の最大の脅威はコンピュータといっていいだろう。
パンドラの箱を開けてしまったのは、前の前の連盟会長だった米長邦雄永世棋聖。
確かに私も、コンピュータ将棋を商売に、金もうけにつなげようとしているなという印象を持っていた。
私がそう思うのだから、中にいる棋士の懸念はもっと強かったと推測する。
この本の中で橋本八段は米長会長の活動を「暴走」と批判している。
それでは橋本八段は将棋界をどういう方向にもっていきたいのか。
まずコンピュータ将棋との関わり方を見直すこと。
また棋士の数を減らすことも提案している。
とにかく危機感が非常に強くにじみ出た一冊だった。
この本が刊行される五か月前に「不屈の棋士」という本が講談社現代新書から出ている。
「棋士の一分」の『おわりに』を読むと、先にこの「不屈の棋士」を読んだほうが流れがよくわかったかもしれないと思った。
近日中にこの本も読むつもりでいる。
そして将棋界の現状を掴んでおきたいと思う。